琥珀色に染まるとき
雨の中でひとり、佇んでいた女。色のない雨景色をひとり、眺めていた男。
雨の降る日にはそれぞれの痛みを抱え、別々の場所で同じように苦しんできた男と女は、雨に見守られながらひとつに結ばれた――。
心に空いた穴はすぐには塞がらないかもしれない。雨の日には、その隙間に染み込む、湿った哀しみの気配を感じるかもしれない。それでも……。
女ボディーガードとバー店主。過去の記憶に縛られながらも惹かれ合うふたりの物語。
滲む墨痕
自己陶酔とは、こういう感情のことをいうのかもしれない。そう思わせる字だった――。
野島潤は、夫とともに訪れた個展で彼の書に出会った。彼の書道教室に足を運び、そのときにかけられた言葉をきっかけにして、深まる秘愛。恐怖を覚えながらも、その激しさに身をうずめていく。
「つまり、僕はあなたの書を美しいと思ったということです」
秘愛は情愛に対立し、醜愛を呼ぶ。有名書道家の彼と老舗旅館若旦那の夫に愛された女が、最後に手に入れた言葉とは……。